題詠
船は行く 噴射口からきらきらと飛び散る花火 さよなら(またね)
さよならを告げて溶け残る気持ちはスープカップの底に隠して
「食パンにバターを塗って焼いてから苺のジャムをかさねてほしい」
宇宙人(自称)不思議な異邦人そして炎上するアカウント
応答せよ応答せよと繰り返す呟きをただ波に放って
新世紀 モビルスーツ ひみつ道具 なにもないのね(ちょっとがっかり)
現状を確認したら現状の維持を目指すときみは微笑む
わたくしは宇宙の保健調査員あなたのからだの仕組みを教えて
不可思議な関東弁を話してる転校生は異物のようで
曲がり角きみとファーストコンタクト折々セカイは疑問に満ちる
揺さぶれば濁る言葉を呑み込んで上澄みだけをきみにあげよう
気持ちとは移ろいやすいナマモノで品質保証いたしかねます
早足で過ぎる季節の折々を なすすべもなく立ちて見送る
冬の朝 肌に馴染んだ掛布団 「離れがたい」の一例として
待ち人を待ちぼうけする足下のアスファルトには「止まれ」の文字が
衆目の追尾機能を振りきって走りぬけよう空のはてまで
遠き日のかなしみが住む部屋のドア 忘れてしまえ 鍵も捨てよう
くちづけは局所麻酔かくちびるが痺れて言うべきことを言えない
分水の嶺で別れた彼のひとと鯨の腹の中でまた会う
「唯一」ときみに告げれば「最上」と応えが返る齟齬の悲しき
真緑の壁に出口を見つけたら駆け込めピクトグラムの人影
うなだれて雨に打たれる弱竹(なよたけ)の姿を布団の中から想う
神無しのさやけき月に照らされて薄ぼんやりと浮かぶ道行き
清潔な君の歯列はシャッターでノックをしても決して開かない
みちしるべ 子犬が吠える角を右 たんぽぽが咲く庭を左に
霞立つ野から千鳥は飛び去ってゆめさめてなお聞こえる羽音
もしかしてお腹すいてる? ジェラシーの炎で焼いた餅ならあるよ
ふみはずす さほど柔くはない肌の下を流るる血潮も熱し
ぬるま湯の中で自分の輪郭がほどけて溶ける夢をみている
修羅道が映る四角い窓を閉め今日は一日眠っていたい