題詠

030:噴(大島幸子)

船は行く 噴射口からきらきらと飛び散る花火 さよなら(またね)

029:スープ(大島幸子)

さよならを告げて溶け残る気持ちはスープカップの底に隠して

028:塗(大島幸子)

「食パンにバターを塗って焼いてから苺のジャムをかさねてほしい」

027:炎(大島幸子)

宇宙人(自称)不思議な異邦人そして炎上するアカウント

026:応(大島幸子)

応答せよ応答せよと繰り返す呟きをただ波に放って

025:がっかり(大島幸子)

新世紀 モビルスーツ ひみつ道具 なにもないのね(ちょっとがっかり)

024:維(大島幸子)

現状を確認したら現状の維持を目指すときみは微笑む

023:保(大島幸子)

わたくしは宇宙の保健調査員あなたのからだの仕組みを教えて

022:関東(大島幸子)

不可思議な関東弁を話してる転校生は異物のようで

021:折(大島幸子)

曲がり角きみとファーストコンタクト折々セカイは疑問に満ちる

098:濁(大島幸子)

揺さぶれば濁る言葉を呑み込んで上澄みだけをきみにあげよう

097:証(大島幸子)

気持ちとは移ろいやすいナマモノで品質保証いたしかねます

096:季節(大島幸子)

早足で過ぎる季節の折々を なすすべもなく立ちて見送る

095:例(大島幸子)

冬の朝 肌に馴染んだ掛布団 「離れがたい」の一例として

099:文(大島幸子)

待ち人を待ちぼうけする足下のアスファルトには「止まれ」の文字が

094:衆(大島幸子)

衆目の追尾機能を振りきって走りぬけよう空のはてまで

093:ドア(大島幸子)

遠き日のかなしみが住む部屋のドア 忘れてしまえ 鍵も捨てよう

092:局(大島幸子)

くちづけは局所麻酔かくちびるが痺れて言うべきことを言えない

091:鯨(大島幸子)

分水の嶺で別れた彼のひとと鯨の腹の中でまた会う

090:唯(大島幸子)

「唯一」ときみに告げれば「最上」と応えが返る齟齬の悲しき

089:出口(大島幸子)

真緑の壁に出口を見つけたら駆け込めピクトグラムの人影

088:弱(大島幸子)

うなだれて雨に打たれる弱竹(なよたけ)の姿を布団の中から想う

086:ぼんやり(大島幸子)

神無しのさやけき月に照らされて薄ぼんやりと浮かぶ道行き

085:歯(大島幸子)

清潔な君の歯列はシャッターでノックをしても決して開かない

084:左(大島幸子)

みちしるべ 子犬が吠える角を右 たんぽぽが咲く庭を左に

083:霞(大島幸子)

霞立つ野から千鳥は飛び去ってゆめさめてなお聞こえる羽音

087:餅(大島幸子)

もしかしてお腹すいてる? ジェラシーの炎で焼いた餅ならあるよ

082:柔(大島幸子)

ふみはずす さほど柔くはない肌の下を流るる血潮も熱し

081:自分(大島幸子)

ぬるま湯の中で自分の輪郭がほどけて溶ける夢をみている

080:修(大島幸子)

修羅道が映る四角い窓を閉め今日は一日眠っていたい