題詠

079:悪 (大島幸子)

現実と絵空事とを間違える 君は悪い子(主に頭が)

078:師 (大島幸子)

大海をさまよう椀の真ん中で一寸法師は途方に暮れる

077:うっすら (大島幸子)

うっすらと積もった雪のその下はアイスバーンだ油断めさるな

076:納 (大島幸子)

冬空に納戸色したブレザーと赤いマフラー奇跡の調和

075:良 (大島幸子)

『裕福』の定義は“ちょっと良い米”を迷わず籠に放り込めること

073:史(大島幸子)

自分史上最大級のダメージを避けるすべなくまともに喰らう

074:ワルツ(大島幸子)

そのかどで出会う予定の運命にワルツのステップで回避される

072:産(大島幸子)

もういちど生まれ変わろう柔らかな産毛同士が触れ合う夜に

071:得意(大島幸子)

得意気な笑顔が眩しかったから この暗闇に未だ慣れない

070:柿(大島幸子)

倦怠に炙りだされた情欲が照柿色の夕日に溶ける

069:視(大島幸子)

雪月花 寒さで指がかじかんで視度調整がうまくいかない

068:兄弟(大島幸子)

年上の兄弟が欲しかったなあ って長子なら思いますよね

067:闇(大島幸子)

真夜中の砂漠の井戸の暗闇に小石を投げて深さを測る

065:投(大島幸子)

トンネルを抜けて世界の果てまでも(後逸されし暴投球は)

064:刑(大島幸子)

生きてゆくという軛(くびき)を持つ刑徒(けいと)いづれの日にか露と消えなむ

066:きれい(大島幸子)

炊きたてのご飯と鮭と味噌汁と なんてきれいな朝の食卓

063:以上(大島幸子)

並列な地平にきみは立っている それ以上でも以下でもないよ

062:氏(大島幸子)

この度はご愁傷様この紙に住所氏名をお書きください

061:獣(大島幸子)

人慣れぬ獣もいつか愛を知り尾を振ることをいとわなくなる

060:何(大島幸子)

改札に並ぶ人々ポケットのカード取り出し応える誰何(すいか)

059:永遠(大島幸子)

永遠に果ての見えないこの道を遠く遠く遠くまで行こう

058:秀(大島幸子)

木枯らしに秀でた額あばかれて寄せた頬から熱は沁みゆく

057:衰(大島幸子)

凶暴な想いは箱に閉じ込めて息を潜めて衰弱を待つ

056:善(大島幸子)

逃げて行く君の背中を思い出す 一人の夜の独り善がりに

055:駄目(大島幸子)

境界を踏み越えるのは駄目だけど狭間でくちづけするのは許す

054:商(大島幸子)

テーブルの上に転がる赤い実を割って兎の商を求めよ

053:受(大島幸子)

まごころを確かに渡したはずなのに受け取り印をもらえずにいる

052:ダブル(大島幸子)

五十歩百歩ダブルスコアの距離を鼻歌まじりのスキップで進め

051:般(大島幸子)

謹んで諸般の事情を考慮した玉虫色の返答をせよ

049:括(大島幸子)

我々と括ってみても虚しくて わたしはわたしあなたはあなた