題詠
現実と絵空事とを間違える 君は悪い子(主に頭が)
大海をさまよう椀の真ん中で一寸法師は途方に暮れる
うっすらと積もった雪のその下はアイスバーンだ油断めさるな
冬空に納戸色したブレザーと赤いマフラー奇跡の調和
『裕福』の定義は“ちょっと良い米”を迷わず籠に放り込めること
自分史上最大級のダメージを避けるすべなくまともに喰らう
そのかどで出会う予定の運命にワルツのステップで回避される
もういちど生まれ変わろう柔らかな産毛同士が触れ合う夜に
得意気な笑顔が眩しかったから この暗闇に未だ慣れない
倦怠に炙りだされた情欲が照柿色の夕日に溶ける
雪月花 寒さで指がかじかんで視度調整がうまくいかない
年上の兄弟が欲しかったなあ って長子なら思いますよね
真夜中の砂漠の井戸の暗闇に小石を投げて深さを測る
トンネルを抜けて世界の果てまでも(後逸されし暴投球は)
生きてゆくという軛(くびき)を持つ刑徒(けいと)いづれの日にか露と消えなむ
炊きたてのご飯と鮭と味噌汁と なんてきれいな朝の食卓
並列な地平にきみは立っている それ以上でも以下でもないよ
この度はご愁傷様この紙に住所氏名をお書きください
人慣れぬ獣もいつか愛を知り尾を振ることをいとわなくなる
改札に並ぶ人々ポケットのカード取り出し応える誰何(すいか)
永遠に果ての見えないこの道を遠く遠く遠くまで行こう
木枯らしに秀でた額あばかれて寄せた頬から熱は沁みゆく
凶暴な想いは箱に閉じ込めて息を潜めて衰弱を待つ
逃げて行く君の背中を思い出す 一人の夜の独り善がりに
境界を踏み越えるのは駄目だけど狭間でくちづけするのは許す
テーブルの上に転がる赤い実を割って兎の商を求めよ
まごころを確かに渡したはずなのに受け取り印をもらえずにいる
五十歩百歩ダブルスコアの距離を鼻歌まじりのスキップで進め
謹んで諸般の事情を考慮した玉虫色の返答をせよ
我々と括ってみても虚しくて わたしはわたしあなたはあなた